2017年12月26日(旧暦11月9日)
WAVE UNIZON 編集長/CAFE UNIZON 店主 三枝 克之
1:埔里(プーリー)

埔里のバスターミナル

埔里の小学校の通学風景
台湾唯一の内陸縣である南投縣の街・埔里(プーリー)は、位置的にはちょうど台湾島の中心にあり、「台湾のヘソ」ともいわれています。回りを2000〜3000mの高い山々に囲まれ、印象としては長野県の松本市あたりに似た雰囲気。台中からバスで1時間半ほど。リゾート地の日月潭や霧社事件の現場・仁愛郷への中継地点にもなっています。市場を歩けば、タケノコやワラビなど、山菜を多く見かけるのも、何だか日本の山里に来たよう。

埔里の朝市

市場でタケノコやワラビを売るおじさん。
そんな山間の街なので、埔里は清らかな水が豊か。台北のコンビニなどでも埔里の水のペットボトルはよく見かけます。この水を使うことで埔里を有名にしている名産品は、何といっても紹興酒。世界的に有名な紹興酒造所で博物館や売店も併設する<埔里酒廠>には、台湾各地から観光バスが次々と到着し、人々は年数を重ねた紹興酒を何本も買ってからバスに乗り込みます。元々この酒造所は日本統治時代に日本酒の酒造所として作られたもので、戦後に紹興酒作りに切り替えられました。
同じく日本統治時代に始まるものとしては、和紙もこの街の特産品です。

<埔里酒廠>の紹興酒博物館の酵母キャラクター
そして意外と知られていない、埔里ならではの工芸品が漆器。埔里の周囲の山には漆の木が自生し、これを使って日本統治時代から漆器が多く作られてきました。この伝統を受け継ぐのが<龍南漆器>。樹齢150年以上のケヤキの木を手彫りした木地に、埔里産天然漆を幾重にも塗り、すべて手作業で制作しています。1988年からは台湾では木材の伐採が禁止されていますが、それまではケヤキも台湾産のものを使っていました。1980年代あたりまでは日本にもかなりの数を輸出していたそうです。
埔里の中心部に前社長の徐玉富さんが館長を務める<龍南天然漆博物館>があり、その売店で<龍南漆器>の漆器は購入することができます。

さまざまなウルシの木が植えられている<龍南天然漆博物館>入口
2:龍南天然漆博物館

安南ウルシからウルシの樹液を採る様子。受け皿は貝殻
<龍南天然漆博物館>の入口の庭には、台湾ウルシ、安南ウルシなど数種類のウルシの木が植えられており、木からウルシの樹液を採る様子も再現しています。台湾では、幹に付けた傷から滴る漆を貝殻で受けるのが伝統とのこと。
<龍南天然漆博物館>は、徐館長と<龍南漆器>が収集、保存してきたものを展示するワンフロアの個人博物館です。入場は無料。入口で声を掛けて見学の旨を伝えると、徐館長が登場し、電灯を点けて、自ら案内・説明してくれます。徐館長は日本語も流暢。ここには、日本からも石川や関西はじめ、多くの漆器関係者がたびたび訪れるそうです。琉球漆器を研究している沖縄の<浦添市美術館>の関係者も来ているとのこと。

中央が徐玉富館長、右が奥さん、左が現<龍南漆器>代表を務める息子さん
館内には漆の採取の方法や漆器の制作の工程、そのための道具などが、歴史を追って、説明、陳列されています。そして圧巻なのは、螺鈿、蒔絵、象嵌、沈金、堆錦などさまざまな技法を駆使しながら、贅を尽くした古い中国の漆工芸品の展示。数百回も重ね塗りしたものや、台北の故宮博物館に出している作品もあるそうです。日本統治時代に日本の漆器職人から受けた影響についてもよく説明されています。台湾の漆器は、中国古来の装飾的な美意識と日本の民藝的な美意識のハイブリッドといえるかもしれません。
3:日常使いの台湾漆器

<龍南天然漆博物館>売店
博物館の出口が売店。大小のお椀、お箸、茶器、お盆など、日用的な漆器が並んでいます。どれも手作りの作品ですが、価格はとてもお手頃で、ふだん使いのうつわにピッタリ。日本の漆器のような繊細さはなくとも、漆の味わいが存分に楽しめ、生活を彩るうつわとして魅力的なものばかり。手に取ってみると、手作りならではの温かい感触が伝わってきます。日本に数多く輸出していた時期もあるので、日本の暮らしにもなじむ一方、日本にはないエキゾチックな香りもほんのりするデザインは、エスニックな食材を和風にアレンジした料理などにも合いそうです。ましてや、台湾とは風土も食材も重なる沖縄の食卓には、すんなり似合うはず。台湾漆器をラフテーや中味汁などに使うのもありでしょう。
今回仕入れた商品を簡単に紹介します。

止滑碗

止滑碗の底
「止滑碗」は碗の底のほうのちょうど人差し指や中指を掛けるところを平らに彫り込んでいて、その名の通り碗を滑りにくくしたもの。ありそうでなかったアイデアです。

線條碗
「線條碗」は碗の側面に段々に重なる、畝のような造形がユニーク。

虹彩碗
虹色の碗というその名もロマンチックな「虹彩碗」は、緑や黄色の色使いが個性的ですが、じっと見ているとこれに合う料理ってどんなだろう?と、料理の発想を広げてくれそうです。

亀甲不規則碗
「亀甲不規則碗」は側面を亀甲状に彫り込んでいった台湾独特のデザイン。おめでたい席にも使えますね。

丸満碗
「丸満碗」はその名も円満な、結婚などの贈り物、引き出物などに最適な碗。側面に丸く切った布が3ヶ所、漆で塗り貼られていて、黒と赤の夫婦碗で買うのがオススメ。

鴨嘴杯
「鴨嘴杯」も縁や注ぎ口などに布を漆で塗り貼った、独特の感触のある食器。これでお茶やお酒を注ぐと、場も華やぐことでしょう。

八角小杯
「八角小杯」は鎌倉彫による八角形の杯。お酒やお茶はもちろん、ちょっとした先付けや小菓子を入れるのにも使えます。
売店では漆器のほか、木材から採った100%天然精油も販売しています。ヒノキの精油は、今では伐採が禁止されている台湾ヒノキから25年前に採取した貴重なもの。クスノキの精油はいわゆる樟脳で、かつては日本にもたくさん輸出されていました。どちらも心落ち着ける香りとともに虫除け効果があり、ロールオンタイプなので肌に直接塗ることもできます。精油とミルクを混ぜてお風呂に入れるのもいいそうです。日陰に保存すれば、10〜20年保ちます。

ヒノキ精油とクスノキ精油
そしてここで買った漆器などは、埔里産の和紙の紙袋に入れてもらえるのです。
漆器の工房は博物館から車で10分ほどのところにあります。

<龍南天然漆博物館>近くの食堂の激旨「鷄肉飯」
データ
Ⓒ WAVE UNIZON, Katsuyuki Mieda 2017
コメントをお書きください