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図録トピック② 安達窯/新北市

2018年1月10日

 

WAVE UNIZON 副編集長 高原浩子

●安達窯

安達(アンター)窯は1976年に台湾・新北(シンペイ)市の鶯歌(イングー)という街で創立されて以来、日用陶磁器からアートピースまで幅広い製品を世に送り出してきた窯元です。パンフレットやホームページからも、新しいデザインを取り入れながらも台湾の陶磁器の美しさを伝えることのできる製品を作り続けていることが伝わってきます。

 

今回の台湾博覽會では、その安達窯の青磁の器を紹介しました。

青磁とは一般的に釉薬が青緑色の磁器をいいます。古くは緑磁とも呼ばれ、唐の人、陸羽(りくう)も『茶経』の中でその美について触れており、中国において、東洋独特の釉薬を用いる伝統技法を用いて発達しました。

セラドンといわれる色ですが、安達窯の青磁はタイのセラドン陶器よりは青に近い色合いで、透明度が高いのが特徴です。安達窯では1260℃の高温で還元焼成を行い、この翡翠のような透明感のある青色を作り出しているということでした。光にかざして見ると、器の図柄が浮かび上がります。うっとりする美しさですね。

●鶯歌にて

「安達窯」に出会ったのは鶯歌を訪れた時でした。ガイド本によると、陶器屋が軒を連ねる老街があるとのこと。「鶯歌」という美しい地名からしても、そこに何かいいものがある気がして、列車に乗って向かいました。

「鶯歌」駅を出て、15分ほど歩いたでしょうか。その老街は思ったより大きく、通りの両側にはずらりと器を扱う店が並んでいます。ちょうど台湾茶を自宅で楽しみたいと思っていた折だったので、私はそのための茶器を探して通りを歩いていました。

 

その時、偶然通りかかった一つの店舗のウィンドウに、渋い色をした茶器が見えました。それはある作家の作品で、とても手の出る価格ではなかったのですが、「いいものがある」という予感だけを頼りに、静かな店内を奥へと進みました。ケース入りの作家の作品を鑑賞して進むと、店の奥の飾り棚に並んでいたのは眩しいスポットライトの当たった青磁の数々。そこが「安達窯」だったのです。

安達窯のお店では、店長が製品の品質やデザインの意味を説明して下さったのですが、ただ商品について語るだけでなく、客が知りたい価格のこと、在庫のこと、使用方法についても話を差し出して下さって、心地よく過ごすことができました。製品そのものはもとより、それを届けることにまで心配りのある、素敵なお店です。梱包もとても丁寧で、安心して持ち帰ることができました。安達窯の店舗はこの老街に三店舗あって、他の店舗からの商品の取り寄せにも対応してくれます。

 

お買いものの後には、店長がお茶を淹れながら、購入した茶器を実際にどのように使うのかを教えて下さいました。沖縄から来たのだと伝えると、店長のおばあさまは昔、沖縄へたびたび行かれていたそうで、そのお土産の「ウメ」、それがいったい何なのかはわからなかったのですが、甘くてとても美味しいそれが大好きだったと、にこやかにお話をして下さいます。こういう和やかで静かなひと時こそが、お茶の時間の魅力なのだと思います。

●ひとり茶会

さて鶯歌で買った青磁の茶器。それを使って私は時々、「ひとり茶会」を開いています。食事の後や、少し時間のある午後、美味しいお菓子を頂いたような時に。

台湾茶の正式なお作法を知らないため、茶器を買い求めた時に教えてもらったやり方をそのままやっているだけなのですが、湯を沸かし、茶葉や道具を調えてお茶に向かっていると、青磁の柔らかな色味も相まって、なんともまろやかな心持ちになるのです。

ここで少しその様子をお伝えしようと思います。

茶道具。青磁の茶器、左から、茶海、茶壺、蓋置き。

花布柄の小杯は茶こし置きとして使用。

茶盆の上に、茶托、そこへ茶杯(左)と聞香杯(右)を載せてみました。

台湾の友人からもらった「阿里山」のお茶。

 温めておいた茶壺に茶匙を使って茶葉を入れます。

丸い粒のような茶葉。

茶壺の底が隠れるくらいの量を入れるとよいと聞きました。

沸騰したお湯を注ぎます。

蓋をして待ちます。茶葉が開いて来ました。

温めておいた茶海へお茶を注ぎます。茶こしを使用。

最後の一滴まで注ぎ切ります。

金色のお茶が入りました。

茶杯と聞香杯は予め温めておき、まずは聞香杯へお茶を。

聞香杯のお茶を茶杯へ移します。

香りを聞く=かぐ。聞香。茶会の中でもとくべつな瞬間。至福。

お茶請けには台南の安平で買った栴檀(センダン)の実を。

台湾製の小さな赤いハサミで開けました。

栴檀の実。お茶請けのドライフルーツやお漬物などにぴったりの青磁の小皿。

お茶をいただきます。甘くまるい味。

お茶は何煎かできます。これは二煎目。かなり茶葉が開きました。

一人茶会のあとは、茶器を洗って片付けます。

熱めのお湯で洗って拭き上げるひとときの静けさも、茶会の楽しみの一つ。

次の茶会まで出番待ち。

茶道具を入れているラタンの箱(「無印良品」)。

●展覧会図録

今回の台湾博覽會では、安達窯の青磁から、二組の茶器セット、蓋碗(蓋と茶こしと茶托付きの湯呑み)、茶こし付きのマグカップ、大小の飯碗をラインアップしました。

茶器セットは本格的に中国茶、台湾茶を楽しんで頂けるよう、茶壺、茶海、茶杯、聞香杯、杯托、茶托をセットにしています。

直接茶葉を入れて使える茶こし付きのマグカップは日常使いに。

蓋碗はお客さまや特別なひとときに。

大小のごはん茶碗は、青磁ならではの色が、白いごはんをはじめ、味ごはんも美味しそうに引き立ててくれます。手に取ってみるとしっとりとなじむ質感。ごはんだけでなく、汁ものやおかずなど、どんなものにでも使いたくなる。そう、使いたくなる、そんな器です。

●旅を呼吸する、旅と呼応する

旅をして、いいものを見つけるのは楽しいものです。それがもともと探していたものでない場合はなおさら、いい出会いとなって旅を彩ります。この青磁の器は、美しい街の名前に引き寄せられて出会った旅の記念品でもあるし、そこから帰った日常に、あのお店での小さなお茶会の穏やかなひとときを夢見て再現しようとする、ひみつの装置でもあります。私は時々その装置を作動させては、旅の香りを呼吸することや、日常に新しい習慣をもたらすことを、楽しんでいます。

 

その逆もあるのかもしれないですね。何か、旅のお土産でもらったものや、写真で見た風景に惹かれて、行ってみたいと感じたり、実際に旅に出るということが。行き先は特別な場所でなくてもいいし、遠くなくてさえいい。地名の音の並びが好きだから、というだけでもいいのです。

 

前者が旅を再現させる装置であるのなら、後者は旅を実現させる装置。まだ知らない、日常と交差しない現実を手に入れに行こう。旅人はお土産を置いて行きます。それは誰かの旅のゴールと、誰かの旅のスタートとなり得る呼応。

旅を呼吸し、旅と呼応して、日常は味わいを増していくのでしょう。

次の茶会は、どなたかお客さまを迎えてみようかしら。

Ⓒ WAVE UNIZON,  Hiroko Takahara  2018