WAVE UNIZON はじめました。

2017124日(旧暦1017日/満月)

 

WAVE UNIZON 編集長/CAFE UNIZON 店主  三枝 克之

 

1:新しい衣

 

沖縄に暮らして早15年目。<CAFE UNIZON>を2005年に普天間にオープンして、先月1112日で満12年が経ちました。12年というと十二支ひとまわり。沖縄的には「十三祝い」です。ここまで続けてこられたのは、この12年間にご来店下さったすべてのお客さま、イベント、展示、物販などのアーティストや関係者のみなさま、そして歴代のスタッフのおかげと、あらためて感謝申し上げます。

 

「十三祝い」といえば、人間なら大人用の新しい衣を仕立てるところですが、カフェだとそうもいきません。それで<CAFE UNIZON>がこれからまとうべき、新しい衣についてつらつらと考えてみました。

 

もともと編集者で、本作りや執筆などを生業としていた僕が、なぜ飲食店未経験の身でカフェを営むことになったのか? その「空間と時間に導かれた」ようないきさつについては、また後日に語らせていただくとして、僕が<CAFE UNIZON>をやってきて実感したのは、カフェ、あるいは、実店舗というのは、思っていた以上に力強い「メディア」=「人に伝えることのできる媒体」だということ。僕は毎月月刊誌を編集しているような気分で、歴代のスタッフたちと一緒にメニューを考え、イベントや展示を企画してきました。そしてカフェの持つメディアとしての可能性の高さに気づき、昼の営業を「沖縄文化食堂」、夜の営業を「沖縄文化酒場」と呼ぶようになりました。

 

そして今感じるのは、僕自身がまだこのカフェのメディア機能を十分に使いこなせていないのではないか?ということです。そこで、実店舗であるカフェのメディアとしての可能性を、執筆や編集、出版、プロデュースといった従来の僕の「人に伝える仕事」と連動させるとどうなるだろう?と考えました。もしかしたらその先には、新しいメディアのあり方、新しいメディアの役割が見つかるかもしれない。

 

もちろん結果については霧の彼方にしかありませんが、ひとまずそんな思いを<CAFE UNIZON>の新しい衣として仕立ててみようと思います。このメディアの名前は<WAVE UNIZON>。いきなり紙媒体に取りかかる組織力も資金力もないし、WEB媒体でやるほうが、沖縄という遠隔地ハンデを気にせずに誰にでも届けることができる。つまりは「ウェブ・ユニゾン」の地口というわけです。とはいえ、編集者としてそれなりの意味づけもしてみましたので、それは後述させていただきます。

 

僕のファーストネーム「MIEDA」のアナグラムが「MEDIA」になるという極私的モチーフもありますし、編集者であり、カフェ店主でもあるという立場から、「メディア」=「人に伝える」ということについてもう少し考えてみたい。何かをやってみたい。それが<CAFE UNIZON>の十三祝いにあたっての僕の思いです。

 

 

2:沖縄 as メディア

 

CAFE UNIZON>では、かつて「琉球」という独立海洋貿易国家であった「沖縄」の独自の文化、歴史、自然、風土について、「カフェ」という今の時代のスタイルからどんなアプローチができるか試行してきました。そして僕自身もさまざまな媒体で「沖縄/琉球」の文化について、取材、執筆を重ねてきました。

 

そんな営みを通じて気づいたのは、沖縄/琉球の島々自体が、もともと「メディア」であったのではないか?という仮説です。古琉球の大交易時代はもとより、そのずっと以前から、琉球人は大海原に船でこぎ出し、日本、中国、朝鮮などの東アジアをはじめ、東南アジア、南アジアといった南蛮、あるいは太平洋上の島々まで出かけて、彼の地の文化を他の地へと伝えるいわば「文化の中継発信」をしてきました。その貿易的・外交的営みの中から沖縄の風土にあったものを取り入れ、独自に発酵・昇華させたのが、沖縄/琉球文化となったのです。

 

いわば「文化の中継発信をする」中で、それらを「チャンプルー」(混ぜ合わせるの意)しながら、「新たな文化に発酵・昇華させる」ことこそ、古来、沖縄/琉球がもっとも得意とした生業であり、資源のない小さな島嶼国にとって唯一の活路だったといえます。そしてその状況は今でも変わりません。この一連の活動を現代的に言い換えれば「メディア/媒体」です。つまり「メディア」であることは、沖縄/琉球にとって「天職」なのです。

 

WAVE UNIZON>の使命もこれと同じと考えています。沖縄・奄美を含む琉球弧から、広く東アジア、東南アジア、南アジア、太平洋諸国など、かつて島の人々が船を駆って往来した「モンスーン・エリア」ともいえる地域に取材。そのカルチャーやヒト、モノ、コトを伝え、それらをブランディングし、そこから新たなプロダクツや潮流、価値観を生みだす。そんな一連の編集活動を、実店舗である<CAFE UNIZON>と連動しながら行っていければと思っています。

 

また、この活動をあくまでも沖縄から発信すること。それが、自らを日本の南西端として閉塞的に考えがちだった沖縄をコンプレックスから解き放ち、モンスーン・エリアの北端、アジア・太平洋の一拠点として新たな視点から捉え直すことができればと願っています。このパラダイムシフトこそが、沖縄のブランド力を守り、さらに育むための鍵だと思うのです。

 

 

3:WAVE と UNIZON

 

WAVE UNIZON>の「WAVE」はもちろん波のことです。古来、海に囲まれた沖縄の先人たちは、島々から船を出し、風を受け、波に乗って、はるか遠くまで旅をしました。そのイメージをこの「WAVE」に託しています。

 

波には、国境はありません。同じようにカルチャーの波も、国境を越えて届くものだと思います。写真や映像、デザインや音楽の力、またテキストの多言語表記によって、国境を超えることができる。<WAVE UNIZON>が発信するカルチャーの波も、国境を越え、遠く対岸にまでも届いてほしいと願っています。僕らの思い描くことが「波動」として伝わり、「波紋」を広げ、「新たな波」を起こすことができれば、との想いを込めて発信します。

 

そしてもう一つの言葉「UNIZON」。調和や一致を意味し、音楽用語で斉唱、斉奏を表すように、多様な文化や民族性、個性を持った人々が<WAVE UNIZON>でオーガニック(有機的)に集い、一緒に新しい曲=カルチャーを生み出せたら、とも夢想しています。

 

 

4:カルチャーって何?

 

さて、そんなWEBプレス<WAVE UNIZON>では、カルチャーをどのような角度から紹介すべきでしょう? それは具体的にはこれからの課題ですし、仕立てながら、読者と双方向的に見つけていくものかもしれません。ただ、いずれにせよ思うのです。祖先たちが山を越え、海を渡る「旅」を重ねながら、文化の種をまき、育ててきたことは忘れるべきではないと。だから「旅」は重要なキーワードです。

 

じつは14年前、僕はすでに沖縄に暮らしながら、毎日こんなことを考えていました。

「僕はなぜ沖縄へ来たのだろう?」

もちろん具体的な理由はいろいろあり、それについてはまた後日書いてみたいとも思いますが、僕が考えていたのは、もっとプリミティブ(根源的)な次元です。結局この問いは、ゴーギャンのタヒチでの絵のタイトルにもなった以下の命題につながります。

 

 「僕らはどこから来たのか?」

 「僕らは何者なのか?」

 「僕らはどこへ行こうとしているのか?」

 

今、<WAVE UNIZON>を始めるにあたって、「カルチャーとは何か?」をあらためて考えると、上記の3つの問いに答えようとする営みこそがカルチャーなのではないかという気がしてきます。文学しかり、アートしかり、映画しかり、音楽しかり、ファッションしかり。あるいは、考古学、生物学、人類学、歴史学、言語学、環境学など、あまたの学問しかり。もしかしたら、日々の暮らしも、経済活動も、宗教も、愛やSEXさえもそうかもしれません。

 

そしてこの3つの問いを集約するひと言が「旅」。この「旅」は、人類の移動の歴史を辿る長い長い時間の旅でもあるし、前世と来世の間に挟まれた、現世という人生の旅、また人生の一日一日を紡ぐ、暮らしという旅でもあります。カフェに行くことも、そこで過ごす時間も、小さな旅だと言えるでしょう。もちろん、冒険であれ、自分探しであれ、観光であれ、あらゆる旅行は、この3つの問いに大きなヒントを与えてくれる機会です。

 

WAVE UNIZON>では、このような広義の「旅」の視点から、カルチャーにアプローチしてみたいと思っています。

 

 

5:「エディトリアル・ショップ」

 

と、未だにはなはだおぼろげで恐縮ですが、ひとまず<WAVE UNIZON>をスタートしてみます。「ローンチします!」などと大げさにはとても言えないので、夏に近所の食堂が「ざるそばはじめました。」とそっと旗だけ立てるように、さりげない日常のひとコマとして綴り始めたいと思います。

 

「綴るからには、ほぼ毎日書かねば……」などとは決して考えておりません。一方で、「沖縄発信らしくテーゲー(適当に)に……」と言うのは、読者にも沖縄県民にも失礼なこと。ただ、このWEBプレスでは、何であれ、「ねばならない」という表現は使わないようにしたいと思っています。それは自由な発想を妨げ、人生の旅を融通の利かない無粋なものにするような気がするからです。

 

CAFE UNIZON>のテーマは、「for better days, for better life」。それは<WAVE UNIZON>でも変わりません。

より楽しい日々を送りたい。

より充実した生き方をしたい。

そう考えている方々にとって、役に立つWEBプレスでありたいと願っています。また、そんな方々のためのモノやコトが並ぶ、WEBショップを作っていきたいと考えています。

 

そしてそのWEBショップは、単にモノやコトを選んで紹介する「セレクトショップ」ではなく、WEBプレスと連動しながら、モノやコトを選び、物語に編んで紹介する「エディトリアル・ショップ」とでも呼べるものを、<CAFE UNIZON>という実店舗と連動しながら作ってみたいと考えています。それは個々のお客さんの趣味嗜好や記憶、生き方に合わせて、話題や商品を提供できるような、昔の市場や商店街にあった、個人商店のようなイメージのショップです。

 

 

6:オーストロネシア

 

まずは当面、<CAFE UNIZON>で11/8から12/4まで『UNIZON的台湾博覽會』としてフェアを開催し、今後も引き続きその商品を店頭で販売する予定の、台湾のことを中心に綴ることにします。台湾を一周して各地の工房やショップを訪ねた買い付け旅行記や台湾のカルチャーから感じたことなどを記してみたいと思っています。

 

僕自身は、沖縄と台湾の関係にまるでいとこ同士であるかのような親しみを感じました。台湾に通うことで、沖縄の文化風土がよりはっきり見えた気がしますし、台湾のカルチャーには、沖縄カルチャーへのヒントが日本よりも多くあるように思えます。

 

そして何よりも、オーストロネシア語族と呼ばれている、現在東南アジアから太平洋一帯の島々に暮らす人々が、最初は台湾から船をこぎ出し、波を越え、海を渡る長い旅をスタートさせた。そんな有力な学説に、強いロマンを感じています。

 

 「僕らはどこから来たのか?」

 「僕らは何者なのか?」

 「僕らはどこへ行こうとしているのか?」

 

台湾は、この問いへのヒントを探すWEBプレスの旅の起点として、とても似つかわしく思うのです。

 

波、そして旅。よりよい人生を運ぶもの。

それぞれの人生をウェーブで応援するような、調和がありますように。

 

 

Ⓒ WAVE UNIZON,  Katsuyuki Mieda  2017