2018年7月5日
WAVE UNIZON 編集長/CAFE UNIZON 店主 三枝 克之
台南にそよぐ微風
去る4月17、18日の2日間、台湾の古都、台南市で
「東アジア出版人会議」という国際会議が開催された。
これは2005年から半年に一度のペースで開催されているもので、
岩波書店、みすず書房、平凡社、筑摩書房といった
日本の大手出版社の著名な編集者たちが発起人となり、
中国、香港、台湾、韓国の人文系出版人や研究者に呼びかけてスタートしたものだ。
これまで各地域持ち回りで開催し、
東アジアの出版界に共通する課題について議論を重ねてきた。
そして2016年、10周年の会議が沖縄で開催されたのを機に、
日本とは別の1地域として沖縄も参加するようになった。
それは東アジアにおける沖縄の歴史と、
「県産本」などの固有の出版文化を鑑みてのことだろう。
その第24回目となる台南での会議に、
沖縄代表のひとりとして、僕もお声がけいただき、
本サイト「WAVE UNIZON」の編集長として、初めて参加した。
会場の国立台湾文学館は日本統治時代の台南州庁舎で、
国定古蹟にも指定されている。
レンガ造りの風格ある建築には、
近現代の東アジアの歴史そのものが宿っているようだ。
今回のテーマは「マルチメディア時代の編集テクニック」。
ホスト役である台湾を代表する大手出版社の一つ、
「聯経(れんけい)出版」発行人の林載爵氏による基調講演に始まり、
6地域の16人が次々とユニークな発表をし、会場は沸き続けた。
同じテーマでも捉え方はさまざま。
中国はデジタル化の波こそ物流問題を克服する好機と考え、前のめりになっている。
これに対して他の地域は、
紙媒体と他メディアとの連結や同時展開を模索しているような印象を受けた。
沖縄からは「ボーダーインク」編集者の新城和博さんと僕が発表した。
新城さんは沖縄ローカルならではのラジオやテレビ、ブログなどを活用した、
地域に根ざした企画と読者層を紹介した。
アドリブで繰り出す沖縄口(ウチナーグチ)の表現が楽しくて、
次回は同時通訳にも沖縄口の理解できる人が欲しいと思わされた。
僕は16人の最後の発表者となった。
その内容は、僕が宜野湾市で経営する「カフェユニゾン」のセルフメディアとして、
昨年12月にスタートした、このWEBプレス「WAVE UNIZON」のこと。
かつて琉球が大交易時代に往来していた東アジア、東南アジアに取材し、
それらの地域のカルチャーやモノ・ヒト・コトを、
WEBメディアの他、カフェという実店舗やイベントとも結びながら、
三次元的に紹介していきたい、と
まだ端緒についたばかりのこの試みについて、見取り図を示してみた。
また、そこで用いる、従来の「まとめる編集」に替わる、
「広げる編集」の概念についても述べた。
僕が「CONSTELLATION/コンステレーション」と呼ぶものである。
このオルタナティブな私論はおかげさまで熱いリアクションを多くいただいた。
他の国や地域の出版社から、一緒にできることを考えてみたい、
とのお誘いもあった。
それはまさに「WAVE UNIZON」として、
起こしていきたいと願っている「波」そのものであり、
各国の編集者たちから評価されたことは、
インディペンデント出版人として、大いに今後の励みとしたい。
※CONSTELLATION/コンステレーションの編集概念については、
リンクの副編集長・高原浩子との対談記事を参照していただきたい。
※発表内容を記した原稿は、近日掲載予定。
そしてこの会議の何よりもの収穫は、会議以外の時間にあった。
期間中頻繁に持たれた食事会や酒宴、
あるいは台南の歴史に触れる小旅行。
それらは主催の「聯経出版」スタッフの細やかな心配り、
台湾小吃(シャオチー=大衆一品料理)発祥の地・台南が誇る
美食の数々とも相まって、
6地域の人々が個々にじっくり交遊を深められる場となった。
そうなると、それぞれの言語が何であれ、
まさに心と心が通じ合うとでも言おうか、
なんとなくコミュニケーションが取れていくのだから不思議だ。
今回、台南に集まった6つの国や地域は、
お互いに歴史的、政治的問題を多く抱える。
しかし出版文化を通してならば、「東アジア人」という
もう一つのボーダーレスなアイデンティティを育めるのでは?
そしてそこから「東アジアカルチャー」という
もう一つのボーダーレスなカルチャーシーンが作り出せるのでは?
そしてそのときに、
他の5地域に橋を架けるように位置し、
「チャンプルー文化」を育んできた
この「沖縄」という小さな地域が果たせる役割は、
意外と大きいのかもしれない。
「私は台南のこの微風が何よりも好きなの」
海辺の古い砦跡を巡っているとき、隣にいた台湾人の女性が言った。
僕はその微風の中に、何かの淡い兆しのようなものを嗅いだ気がした。
※本記事は、「琉球新報」2018年5月11日掲載の原稿を加筆修正し、
写真を新たに加えたものです。
Ⓒ WAVE UNIZON, Katsuyuki Mieda 2018