東アジア出版人会議発表原稿/「コンステレーション」まとめる編集から、広げる編集へ

 

日本、中国、韓国、香港、台湾、沖縄。

これら東アジアの6つの国や地域の編集者たちが集まり、半年に一度開催されている「東アジア出版人会議」。

その第24回の会議が、去る4/17・18に台湾の台南市で開催されました。

今回のテーマは、「全メディア時代の編集テクニック:実例を挙げて」。

これに僕も沖縄代表のひとりとして参加し、WAVE UNIZON編集長の立場から発表をしました。

以下、その発表原稿を掲載します

 


「CONSTELLATION(コンステレーション)」まとめる編集から、広げる編集へ  ~セルフメディア<WAVE UNIZON>の着想~

 

2018年4月18日

 

WAVE UNIZON 編集長/CAFE UNIZON 店主  三枝 克之

 

●「編集」とは?

 

「編集」とは何でしょうか? 

各国を代表する編集者が集まるこの東アジア出版人会議で、そんな質問は不要かもしれません。

日本を代表する辞書の一つ、『広辞苑』にもこう書いてあります。

「資料を或る方針・目的のもとに集め、書物・雑誌・新聞などの形に整えること。」

まさにそのとおりです。

今の時代はこのうちの「など」の部分に、電子書籍やWEBサイト等も加わっていますが、おそらくみなさんの仕事はこの定義で間違っていないはずです。

 

かくいう僕もその末端を担っている一員であります。

とはいえ僕の場合、文芸書や人文書のような文字本を手掛けることはまれです。

写真集や絵本や図鑑、あるいは画像とテキストを組み合わせたビジュアルブックを中心に編集や著作をしています。

僕の編集者デビュー作の『空の名前』も、日本の天候や季節にまつわる言葉を、それをイメージさせる写真と組み合わせて紹介した本で、書店の棚のジャンルを飛び越えた編集とデザインが話題を集めました。

それは僕にとっては「編集」という技術に潜む創造性の実験でもあったのです。

 

この場にいるみなさんは、まず本が好き、文章を読むことや書くことが好き、そして出版という活動や編集者という仕事が好きな方々だと思います。

しかし告白すれば僕は、本や出版はたくさんある好きなものの一部でしかありません。

じつは僕が愛し、こだわるのは、「編集」という技術や創造性そのもの。

 

みなさんも「編集に必要な能力のABC」というのはよくご存じでしょう。

AArtist、つまり知的創造力。

BBusinessman、つまり営業マネジメント力。

CCraftman、つまり職人的技術力。

 

僕はこれは何も出版の世界に限ったものではなく、むしろその枠をはみ出てもっと広義に解釈することで、さまざまな活動に応用できると感じています。

出版界の現状を見れば、その未来が明るいと無責任に言うことはできません。

しかし「編集」というノウハウ、何かを「編集する」という発想自体は、これからの時代に求められているものだと思うのです。

 

『空の名前』高橋健司/角川書店
『空の名前』高橋健司/角川書店

モンタージュとは?

 

僕自身はずっと映画が好きで、少年時代から自主映画を作っていました。

そして大学では映画学を学び、「モンタージュと長回し」を卒業論文のテーマにしました。

モンタージュとは複数のショットを組み合わせて表現することで、要するに映像編集のことです。

 

たとえば、階段の上にあるベビーカーを見上げたショットがあります。

それに続いて、上のほうを見ながら「あ!」と叫んでいる女性の顔のショットを繋げます。

するとこの二つの映像を見た人の頭の中には、階段を転げ落ちるベビーカーの映像が浮かびます。

たとえそのショットがなくてもです。

 

あるいは、笑っている赤ちゃんのショットがあります。

それに続いて、笑っているお母さんのショットを繋げます。

するとこの赤ちゃんのかわいさは、赤ちゃんだけを映したショットよりも際立って感じられます。

 

つまり、モンタージュ=「編集」は、ABを結び付けることで、Cという別のものを伝えることもできれば、ABを結び付けることで、その関係をより強く、わかりやすく、感覚的に伝えることもできる技術なのです。

 

そう、僕にとっての本の編集は、映像の編集の応用でした。

その視点から考えれば、本にはまだまだ「編集」で新しいことができるような気がしました。

『空の名前』が出版業界で目新しく映ったのはそれが要因だったのでしょう。

 

セルゲイ・エイゼンシュテイン『戦艦ポチョムキン』より
セルゲイ・エイゼンシュテイン『戦艦ポチョムキン』より

カフェを「編集」する

 

異論もあるでしょうが、僕にとって本はパッケージです。

1があり、表4があり、その間に背によって綴じられた本文ページがあるという構造のパッケージです。

読者は表紙を開き、ページを繰るという動作でこのパッケージの中身に触れていきます。

本の編集とは、この構造をいかに利用して、表現したいものを読者に伝えていくかという技術といえるでしょう。

 

そう考えると「素材を集めて、選んで編み、あるパッケージにまとめることでユーザーに伝える」、そのために「知的創造力と営業マネジメント力と職人的技術力を駆使する」という「編集」は、他の創造的分野や日々の生活にも生かせる技術かもしれません。

たとえば展覧会のキュレーションも、CDの制作も、音楽フェスティバルのプロデュースも「編集」です。

インテリアをコーディネートするのも、旅行をプログラムするのも「編集」といえそうです。

あるいは地域おこしやコミュニティ作り、組織運営にも「編集」という思考は役立つはずです。

 

じつは以上に例として示したことはすべて、僕自身がフリーランスの編集者になってから、本の編集や著作、執筆業と並行して実際に行ってきた活動です。

そしてその集大成的にスタートし、今も続けているのが、沖縄で2005年に創業したカルチャーカフェ、CAFE UNIZONです。

 

このカフェでは飲食の提供はもちろんですが、直販による新刊本やセレクト古書、地元作家が作る雑貨や地産食品の販売もしています。

また毎月、展覧会や物販フェアを開催し、ライブ、トークショー、セミナーなどを月12本ペースで12年間企画し続けています。

そしてそれらを通して、カフェ的アプローチで沖縄文化の発信を試みています。

 

僕にとってこの<CAFE UNIZON>は、カフェという空間を使って月刊誌を「編集」しているような感覚です。

おかげさまで今では、沖縄の人々に文化発信基地の一つとして親しまれ、日本はもとより、ここ台湾からも、また中国、香港、韓国からも多くのお客さまがいらしてくれています。

 

CAFE UNIZON ホームページ
CAFE UNIZON ホームページ

カフェ as メディア、沖縄 as メディア

 

そんな多面的な「編集活動」を続けてきて、感じたことが二つあります。

 

一つは、カフェというのは、思っていた以上に力強い「メディア」=「人に伝えることのできる媒体」だということです。

そのカフェの高いメディア機能を、編集者である僕自身がまだ十分に使いこなせていないのではないか? 

実店舗であるカフェのメディアとしての可能性を、執筆や編集、出版、プロデュースといった従来の僕の「人に伝える仕事」と連動させるとどうなるだろう? 

もしかしたらその先には、新しいメディアのあり方、新しいメディアの役割が見つかるかもしれない。

 

そしてもう一つは、沖縄/琉球の島々自体が、もともと「メディア」だったのではないか?という仮説です。

古琉球の大交易時代の以前から、琉球人は大海原に船でこぎ出し、東アジアをはじめ、東南アジア、南アジア、あるいは太平洋上の島々まで出かけていました。

そして琉球は「文化の中継地点」としての役割を担っていました。

その貿易的・外交的営みの中から沖縄の風土にあったものを取り入れ、独自に発酵・昇華させたのが沖縄/琉球文化です。

 

いわば「文化の中継発信」こそ、古来、沖縄/琉球が地理的にもっとも得意とした分野であり、資源のない小さな島嶼国にとって数少ない活路だったといえます。

そしてその地勢的条件は今でも変わりません。

このかつての沖縄/琉球の一連の活動を現代的に言い換えれば「メディア」。

つまり「メディア」であることは、沖縄にとって観光産業とともに並立すべき「天職」のような気がしてきたのです。

 

これら二つの感覚は、これまで僕が手掛けてきた「まとめる編集」の他に、「広げる編集」とでも呼ぶべきものがあるのではないか?との思いを抱かせました。

そして201712月に船出したのが、WAVE UNIZONというWEBプレスです。

かつて沖縄の先人たちがサバニという小舟を駆り、波に乗って往来したように、沖縄・奄美を含む琉球弧から、東アジア、東南アジア、南アジアなど、「モンスーン・エリア」ともいえる地域に取材。

そのカルチャーやモノ・ヒト・コトを伝え、そこから新たなプロダクツや潮流、価値観を生み出せればと願っています。

 

そしてこの活動を沖縄から発信することで、日本の南西端の一地域として捉えがちだった沖縄を、モンスーン・エリアの一拠点として捉え直してみたい。

このパラダイムシフトこそが、沖縄のブランド力を育むための鍵のような気がしています。

 

写真:三枝克之
写真:三枝克之

<WAVE UNIZON>試験航海中

 

WAVE UNIZON>は生まれて4ヶ月(※発表時)しか経っていない零細なセルフメディアです。

記事もまだ少なく、多言語表記も手つかずの状態です。

これによってどういう収益の上げ方があるのかもはっきりとは見えていません。

しかしそれでも、この4ヶ月にあったリアクションは、予想以上のものでした。

 

最初の特集では台湾を取り上げ、台湾一周の旅をしながら、モノを集め、ヒトに触れ、コトを紹介しました。

集めた台湾の民芸品や雑貨をカフェで展示販売したフェアもたいへん好評でした。

ある出版社からは沖縄と台湾を繋ぐ旅の本の企画も持ち上がりました。

三次元イベントとして開催した「台湾の市場から今後の沖縄の市場文化を考える」という趣旨のミーティングは大いに盛り上がり、より具体的なプランを作るためのプロジェクト化が決定しました。

その参加者のひとりからは、台湾原住民族のさまざまな部落を訪ね歩いた手記が持ちこまれ、掲載準備中です。

 

このような双方向性とスピード感は、WEB、カフェ、イベントなど、媒体の枠組みを超えた編集メディアならではの醍醐味でしょう。

そして何よりも驚いているのは、まだ試験航海中のようなメディアにもかかわらず、今こうして台南の地に来て、この東アジア出版人会議で発表の機会をいただいていることです。

12年後には、この二次元のWEBプレスでありながら、三次元的なモノ・ヒト・コトの流れも備えた媒体について、もっと具体的な成果や事業実績を報告できるかもしれません。

 

WAVE UNIZON トップページ
WAVE UNIZON トップページ

「CONSTELLATION」とは?

 

最後に、今回自分で初めてWEBプレスを手掛けることで見えてきた「編集理論」について、少しだけ紹介してみたいと思います。

それを仮にCONSTELLATION(コンステレーション)」と呼ぶことにしましょう。

その語の直接の意味は「星座」。

しかし僕がこの言葉を引っ張ってきたのは、ユング心理学の用語からです。

 

これは、一見無関係・無秩序に配置されているように見えるものが、いつしか全体的に意味を持つものであると気づくことをいいます。

宇宙に散らばる星々も、それを頭の中で星を選び、それらを結んでいくと、そこにギリシア神話の神々や英雄、動物たちの姿が浮かび上がってくるように……。

 

WAVE UNIZON>もこの「CONSTELLATION」を念頭に「編集」してみたいと思っています。

僕はこれまでどんな種類の「編集活動」をしようとも、最終的にはあるパッケージ、完成形へと「まとめる編集」に取り組んできました。

しかしこの<WAVE UNIZON>にはパッケージはなく、完成形も求めていません。

むしろ増殖し、成長し、進化していく過程そのものを表現としてみたい。

つまり「広げる編集」です。

そして次第次第に現れて消えるコンテンツから、そのつどつどの意味=CONSTELLATIONに気づいていきたいと思うのです。

 

「編集」という技術はメディアが何であれ有効です。

そしてそこに未開拓の編集方法論があることを発見したなら、試さずにはいられません。

なぜなら僕は「編集者」なのですから。

 

写真:西美都
写真:西美都

 

三枝克之(KATSUYUKI MIEDA

 

編集者、著作家、プロデューサー。

WAVE UNIZON編集長。

 

1964年、兵庫県生まれ。

東京でのレコード会社勤務、京都での出版社勤務を経て、1995年よりフリーランス。

2003年に沖縄へ転居。

2005年に宜野湾市でCAFE UNIZON 開業。

 

企画編集作品は、トータル120万部を超えるベストセラー『空の名前』三部作(角川書店)をはじめ多数。

著書に、「万葉集」をポップス風に訳した『恋ノウタ』(角川文庫)、世界各地の月の神話と写真を綴った『月のオデッセイ』(リトルモア)などがある。

BRUTUS』『& Premium』(マガジンハウス)などの雑誌で、沖縄カルチャーの記事も手掛ける。

 



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