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トルコの喫茶時間

「喫茶スタイル」インタビューその1

 

アジアとヨーロッパの交差点、トルコ。暮らしにチャイ(紅茶)が欠かせず、またトルココーヒーという伝統的なコーヒー文化も持つこの国の喫茶時間について、イスタンブール出身のアシュクン・アントニオ・ユルドゥルムさんにお話しをうかがいました。

(取材・文・写真:三枝克之)

 

イスタンブール/ボスポラス海峡
イスタンブール/ボスポラス海峡

【プロフィール】

Askin Antonio Yildirim

アシュクン・アントニオ・ユルドゥルム

43歳/男性/料理人

沖縄県北谷町宮城にてトルコ料理レストランを営む

ISTANBUL KEBAB HOUSE

1:チャイハネ文化

 

沖縄に来て13年目になります。

このトルコ料理レストランは開業して12年が経ちました。

出身はトルコのイスタンブール。

父の故郷はアナトリアです。

 

トルコでは、いつが喫茶時間というのは決まっていません。

ある意味、いつでも喫茶時間。

人それぞれ、仕事中も暇な時間があればすぐに喫茶時間になります。

朝ごはんのあとも、ランチのあとも、ディナーのあとも喫茶します。

家族団らんのひとときや、テレビを見ながらも喫茶します。

 

飲むのは、ほとんどみんなチャイ(紅茶)です。

若い人も同じです。

角砂糖が付いてきて、好みで1個〜3個入れて飲みます。

ミルクは絶対入れません。

紅茶は自国で生産していて、とても安価です。

日本でいうと110円ぐらいの感覚です。

 

トルコの会社は、90%ぐらいの会社が、会社の中に「チャイハネ」を持っています。

チャイハネとは、チャイやコーヒーを作っている喫茶室のことです。

そこにいるスタッフは「チャイジュ」と呼ばれ、その会社に雇われています。

社員は時間があればそこでチャイを注文し、その場や自分のオフィスやデスクで飲みます。

もちろん打ち合わせにも使いますし、取引先とか、社外の人が来たときも利用します。

 

チャイハネは街のいたるところにあります。

ランチのあととか、会社の帰路に近所のチャイハネに立ち寄ることも多いです。

バザール(市場)などにも必ず何軒かあります。

商店などはいつも使うチャイハネがあり、欲しいときに連絡して届けてもらいます。

 

トルコでは、長距離バスに乗るときも、

商談や注文でオフィスを訪問した時も、

また衣料品店などに買い物に入った時でも、

必ずと言っていいぐらいチャイが出てきます。

もちろん無料です。

これは商慣習になっていて、

「お客さんとして、あなたを大事にしています」というメッセージです。

 

そんな喫茶文化が根付いていますから、

トルコではみんな喫茶に高いお金を払う気にはなりません。

世界で一番、スターバックスがもうからない国かもしれませんね。

 

サクリケント/川床での食事
サクリケント/川床での食事

2:1杯のコーヒーは、40年忘れない

 

喫茶時間に食べるのは、ケーキが多いですね。

トルコのケーキは、むしろパンに近い感覚で、

甘いものの他に、塩味のものや具の入ったものも。

種類は本当に豊富で、1万種類以上とも言われています。

どの家にも常に何種類か常備していて、各家庭の味のケーキがあります。

4人きょうだいだったので、我が家にもいつもいっぱい置いてあって、

子どもたちは今日はどのケーキを食べるかが楽しみでした。

あとはロクム(lokum/ターキッシュ・デライト)という伝統菓子も食べます。

 

トルコの人たちにとっては、喫茶時間は生活習慣のようなもの。

そして人が集まるためのきっかけにもなっています。

家族や親戚、友だちや知り合いとも、しょっちゅう

「お茶を飲もう」と言っては集まります。

2人のときもあれば、20人ぐらいになるときもあります。

我が家でも「お茶を飲もう」と言ったら、

家の中に30人以上集まったことがありました。

 

ちなみにトルコは政教分離なので、

他のイスラム教国と違い、お酒も楽しめます。

イスタンブールには24時間営業のバーなどもあり、

トルコ特産の蒸留酒「ラク」やワインを飲んでいます。

ビールでは、「エフェス」や「ツボルグ」が人気ブランドです。

 

コーヒーは70代以上の人が飲むことが多いですね。

ターキッシュコーヒー(トルココーヒー)と呼ばれる、

独特の粉の挽き方、淹れ方をした、

ドロッとしたコーヒーです。

そのドロッとした感じが味わいになっています。

飲み終わったあとの粉の残り具合で、

コーヒー占いを楽しむこともできます。

 

コーヒーはオスマン帝国時代に入ってきた飲み物で、

元々はとても高価なものでした。

なので今でもトルコには、

1杯のコーヒーは、40年忘れない」ということわざがあります。

コーヒーを出してもらった人は、

その大事にもてなしてもらったことをずっと忘れることはない。

だから多少お金を出してでも人を大事にもてなすことは、

決して無駄にはならない。

つまり、客人には常に親切に、といった意味合いです。

トルコの喫茶文化を象徴することわざだと思います。

(※「1杯のコーヒーにも40年の思い出」とも。

40はトルコでは大きな数のたとえで、40年は長年の意。)

 

トルコの伝統菓子ロクム
トルコの伝統菓子ロクム

 

「私の喫茶スタイル」インタビュー

「喫茶スタイル」インタビューその2 沖縄の喫茶時間

 

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